桑原ヘンプクリート の

プロジェクト

当社では運輸分野での長年の実績を生かし、エコ素材「ヘンプクリート」を使った様々な建築プロジェクトに取り組んでいます。

「住み心地を地球規模で考える」
一級建築士・大森知子さん
インタビュー
 

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大森さんは「土に還る自然の家」という試みを長年実践してこられた建築家だ。藁を使ったエコ建材ストローベイルなど自然素材の家づくりに長年関わり、その中でヘンプクリートに出会う。そして2023年には兵庫県伊丹市において、ヘンプクリートとストローベイルを美しく融合させた自宅を完成させた。

―大森さんが天然素材の建築に興味を持ったきっかけはなんですか?

25年ほど前は分譲住宅の設計をしていました。しかし流れ作業で作られる住宅が誰かの故郷になってしまうことに疑問を感じており、新しい方法でもっと愛着のわく家づくりに取り組むことができないかと考え始めました。

その時に、藁(わら)を使ったブロック「ストローベイル」を知って興味を持ち、当時、滋賀県で研究プロジェクトを率いていた大学の先生に手紙を書きました。それがきっかけとなり、琵琶湖のほとりに建てられた日本初のストローベイルハウスの現場監理を担当することになったんです。

―まず最初にストローベイル建築に出会ったんですね。

そうです。みんなで藁を固めるところから作業を始め、それを積んで壁土を塗っていくプロジェクトを率いることになりました。

北米では、昔から農場などで藁を加工して家や小屋を建てることはよくあります。しかし日本では地震があり湿度も高いため、同じ手法を採用することはできません。

木材で骨組みを作り断熱材としてストローベイルを使うなど、日本の風土に適したやり方にアレンジする必要があります。特に住宅の場合はきちんと建築基準法にのっとって建てるためにも、様々な工夫が必要なんです。

―ご自宅を建てるにあたっての素材選びについても教えてください。

最初はすべてストローベイルで家を建てることを考えており、建材として優れ、かつ無農薬の既製ベイル(藁ブロック)を探しました。

しかし質を満たすものがなかなか見つからず、結局、奈良で無農薬農業を行っている方をご紹介いただき、自分でベイルを作ることにしました。

ストローベイルには米や麦など、さまざまな藁が利用できますが、私は日本らしい稲作の藁を使用することにしました。こちらの農家で田植えや稲刈りの手伝いをしながら、自宅用のストローベイルを作っていきました。

―稲作りからスタートとは。その徹底ぶりがうかがえます。

なるべく自然素材にこだわりたかったんです。しかし実際に自宅を建てるにあたって、都市の住宅地で建設をストローベイル(藁)を使おうとすると、いくつかの建築規制に直面することになりました。

20年も藁の家に関わってきたので愛着があったのですが、街中の建築に適した他の天然素材はないかと探したところヘンプクリートの存在を知り、これなら大丈夫だと確信しました。

私の家づくりのテーマは「住み終わったら土に還る家」です。耐久性や快適さももちろん重要です。そのため調湿性や断熱性、防音性を備え、火や水にも強いヘンプクリートを外壁の断熱材に使用し、内装にはストローベイルを取り入れることにしました。

―そこで桑原ヘンプクリートに出会ったんですね。

英国に拠点を持つ桑原ヘンプクリートにコンタクトを取り、日本での実例がないこともあり、リサーチのため2週間かけ英国のヘンプクリート業者やヘンプクリートでのリフォーム現場、ヘンプクリートハウスを建てた人々を訪れて話を聞きました。ヘンプクリートの材料となるヘンプは、その時点では日本では国産品が手に入りにくいこともありましたし、より良い素材を探していたんです。

建築士としても、天然の建材が日本に広まるためには、取り扱いやすいヘンプクリート住宅の方が適しているとも感じました。

ヘンプクリート 

ヘンプクリートは、ヘンプ茎の繊維、石灰、水、ミネラルを混ぜ合わせて作られる、生分解性のある建築素材。30年ほども前に誕生し、強度・耐火性を兼ね備えたエコ建材として注目を浴びている。

―大森さんの考えられるヘンプクリート住宅のメリットは?

ヘンプクリートは強度があり、しかも化学薬品を使わないのでシックハウス症候群(※)のような健康リスクがありません。日本でも戦前は全国で広く栽培されていて、繊維を布に加工して利用したり、神事にも使われてきた伝統もあります。調湿性も高いので、日本の気候にもよく合っていると思います。

成長のスピードがひじょうに速いのと、成長する段階でCO2(二酸化炭素)を吸収するので環境にも優しく、サステナブルな形で建材が供給できるというのも建築業界にとって大きなメリットだと考えています。

※「シックハウス症候群」
建材等から発生する化学物質などによる室内空気汚染等と、それによる健康影響のこと。(厚生労働省)

―実際にヘンプクリートハウスで暮らしてみていかがですか?

自宅を建てていた時期が真夏だったのですが、建設中でも内部に入るとかなり涼しいことに気づきました。内壁の表面温度を測定して比較すると、かなりの差がありました。

地域の気候に応じて、ヘンプクリートの厚さを調整することで、室内の快適さを確保できると考えました。

また家が完成し入居したのは冬だったのですが、寝る前に暖房を切り朝起きても室内温度があまり下がらないんです。そして午前中に1時間ほど暖房を入れれば、夕方まで快適に過ごせます。まだ暮らし始めたばかりで細かなデータは取れていませんが、冷暖房コストを長期にわたり抑えられるのではないかと期待しています。

家をヘンプクリート、内装にストローベイルを取り入れましたが、これらの素材の持つ良いところがお互いを引き立てています。呼吸する家を意識して、床下に竹炭を入れたりと他にも様々な工夫をしました。

自然素材が醸し出す空気感はとても心地良いですね。この家で暮らしながら、数年かけてコストや熱効率なども含め、その良さを確かめていきたいと思っています。

―ご自宅を建てることを通じて、改めて気がついたことはありますか?

家を建てるにあたって「次世代に受け継ぐものを残そう」と考えられる方が多いと思います。

しかしこれからの時代は「ここで家をたたもう」と思った時に、家が廃棄物にならず、地球に優しく還元される素材を選ぶことも重要です。家族と住まい、両方のライフサイクルを考えることも大切だという思いを新たにしました。

受け継いだものが新しい世代や地球に負担をかけないようにするためには、このような意識が必要だと感じています。

ヘンプクリートは人に優しく耐久性があり、丈夫であるだけでなく、土に還元されるというメリットを持つ素材です。家族の住まいだけでなく、定年後にコンパクトに快適な生活を求める方の住居にも適しているのではないでしょうか。

天然素材の家は、環境への配慮だけでなく、住み心地という観点からも魅力的な選択肢ということをこれからも伝えていきたいと思っています。

大森 知子 さん
<プロフィール>
一級建築士。一級建築士事務所アトリエ藁(わら)代表。建築家大岩剛一氏設計監理「琵琶湖の家」<ストローベイルハウス(わらの家)2003年>現場監理を担当。家創り・生活プロデュース・アーティストの応援等の活動を行う。建材として優れたヘンプの特性が、日本の環境にも合うのかを検証するために、2023年、兵庫県伊丹市に自宅を環境に配慮したヘンプクリートや、ストローベイル、国産檜等で建築。「天然素材で作る家・土に還る家」の住み心地、体験談をリアルに発信し続けている。

建築プロジェクトの様子